Drastik Adhesive Force(俺)が低速ダンスミュージックを11年やってみてわかったこと 〜 Gorge経由SLAB着
私の朝は一杯のベロッカからはじまる。
昨夜のフランチャコルタのせいで、ぼやけた視界にピントが合ってくる。
「夜も朝も炭酸ばかり飲んでいたら、お腹が爆発しちゃうんじゃないかしら。」
ミス•メキシコに選ばれたこともある生粋のメキシカンである妻は、昨夜も私がドン•フリオのショットを拒み続けたことを根に持っているようだ。
「おはよう。ブランチはタコスにしようと思っているんだけど、どうかな?」
「うん。いいわね。たっぷりのワカモレも忘れないでちょうだい。」
タコスと聞けばどんな時でも笑顔をみせてくれる。これは、長年連れ添った私だけが知る魔法の言葉なのである。
「食前のピニャコラーダもお願いできるかしら?シェフ。」
「承知いたしました。ミセス•メキシコ。」
今日も暑くなりそうだ。
ここは、水の都•ヴェネツィア。
この記事はGorge Advent Calender 2015 16日目の記事です。
こんばんは。Drastik Adhesive Force(ドラスティック•アドヒシブ•フォース)です。
去年寄稿したGorge Advent Calender 2014以来の当ブログ更新なので、丸一年ぶりとなります。またこの企画に参加できたということは、今年もGorgeシーンから滑落することなく無事に活動を続けることができたということでしょう。
今年の活動のなかで最も重要な出来事は、やはり自分のレーベルを立ち上げてアルバムをリリースしたことになります。
2004年からダンスミュージックでは未開拓である“遅さ”を探求してきた俺が、Gorgeと出会って、タムにディストーションをかけるという手法にハマった結果、「遅くても力強い聴いたことのないよくわからないもの」を生み出すことができました。その音はまるで、クライミングでいうスラブ(90度よりも傾斜がゆるく凹凸の少ない壁)を、ねちねちと登っているようだったので「SLAB(スラブ)」と名付け、レーベル名もストレートに「SLAB」。Gorgeを経由したことで到達できたので「SLAB」もGorgeのひとつのスタイルと言えるでしょう。
そして、アルバムリリースから、DOMMUNEでのリリースパーティーまで、多くの方々に助けていただいて、感謝の気持ちしかありません。音楽人生のなかで、今年ほど濃密で幸せな年はなかったのではないでしょうか。
しかし、このような低速ダンスミュージックを11年やってみてわかったことがあります。
それは、ダンスミュージックならある程度のテンポは必要だ。ということです。
何を今さらと、お思いでしょう。もちろん自分のやっている音楽は好きですし、よいものをつくっているという自信もあります。メディアで取り上げてもらう機会も増えてきました。現場では「こんな感じもどうですか?俺はけっこう好きなんだけど、わりとありですよね?」といった調子で、ダンスミュージックの幅を広げる提案としてやってはいるのですが、なかなか現実は厳しいです。そりゃそうです。ダンスミュージックはダンスしやすくてナンボ。
だが、ここまでやってしまったらもう止められない。ニッチに生き残れ!
来年も精進して「SLAB」を世界に発信していきますので、楽しみにお待ちください。
それでは一曲聴いていただきましょう。
本日公開いたしました、Drastik Adhesive Forceで「impulse」です。
呪いの石
この記事はGorge Advent Calenderへの寄稿記事です。
Gorge Advent Calendar 2014 - Adventar
2013年2月2日(土)、hanaliからメールが届いた。
その日はSUPER DELUXEで、前代未聞のジャンルバトル「JUKE vs GORGE」が開催される予定だったが、俺は実家の用事で帰省しなければいけなかったので、仕方なく不参加だった。ところが、前日に両親がインフルエンザに感染してしまい、予定が延期になったので、遊びに行けることになったのだ。きっとディスカウントの連絡でもくれたのだと思ってメールを開いた。
「Gorgeサイドのkampingcarがインフルエンザに感染したので代わりに出演してもらえないか。」
当時大流行していたインフルエンザによって、入り時間の5時間前に前代未聞のジャンルバトルのステージに立つことが決まった。
戦う相手は、BOOTY TUNE、SHINKARONをはじめ由緒正しきレーベルの名だたるDJとアーティスト達である。Juke/Footworkとラップを組み合わせたコンピレーション160OR80がヒットしたばかりで勢いは止まらない。Twitter上ではGorgeをこき下ろし、すでに勝利したかのような余裕ぶりだ。
とはいえ、戦う前から負けを認めるわけにはいかない。幸いなことに、2012年10月27日にpoolで開催された国内初のGorgeオンリーパーティー「Gorge I/O Tokyo 2012」でのライブセットのファイルが残っていて、少し手を加えればなんとかなりそうだったので、急いで準備を進めた。そしてドタバタとリハーサルのために六本木に向かった。
なんとか時間通り会場に着いたが、Jukeサイドの出演者はひとりも来ていなかった。それどころか味方のはずのHiBiKi MaMeShiBaも来ていなかった。不安は募るばかりだがリハーサルを済ませ、気心の知れたBootistと何が起こるか分からないパーティーの始まりを待っていた。
しかし、思った以上に時間があったのでコンビニでビールでも買おうと外に出ることにした。ひとりでぶらぶら歩きながらパーティーのことを考えていると、自分のライブが盛り上がるかどうか不安になってきた。
ここは華の六本木。Juke/Footwork目当てのイケイケなクラバーも沢山来ることだろう。馬刺がうまい街、桜台の「Gorge I/O Tokyo 2012」とはまるっきり環境が違う。BPMが160を越える変則ビートの最先端ダンスミュージックに対し、俺のベストBPMは半分以下の60だ。中肉中背で眼鏡にヒゲの35歳にはフレッシュさのかけらもない。そもそもFoootworkに対抗できるかっこいいダンスがGorgeにはまだない。
今回ばかりは何か特別なことをしなければと危機感を感じていたが、何も思いつかない。これではGorgeの名を汚すどころか、誰の記憶にも残らないまま終わってしまうだろう。俺をこのステージに立たせるためにインフルエンザの犠牲になった両親とkampingcarに申し訳が立たない。ネガティブヴァイブスが俺を飲み込む。
その時、とある割烹の勝手口に落ちていた石に気が付いた。丸くて手頃な大きさだったその石をなんとなく手に取ってみた。その瞬間、俺のスシュムナに稲妻が走りチャクラが開いた。そして、GorgeオリジネーターにしてGPL(Gorge Public License)の提唱者DJ Nangaの言葉が全身に響き渡ったのだった。
「これは岩の音だ、岩を叩く水の音だ、岩に支えられた山の音だ。」
Gorgeの発祥地とされるインド~ネパール山岳地帯のクラブの床には、岩がゴロゴロ転がっていると聞いたことがある。はじめてGorgeを体験する人に少しでも本場の空気を伝えることはできないだろうか。日本の街に岩はないが石ならある。これが日本流のGorgeマナーだ。これからの日本Gorgeシーンの発展を願って石を片手にビールを購入し現場へ戻った。
これが、世に言う「Gorge石(ゴルジェいし)」誕生の瞬間だった。
しかし、期待とは裏腹にこの石は災いしか起こさなかった。自分のライブでは今まで一度もなかった機材トラブルで音が止まってしまったし、いつも冷静なhanaliは、何を思ったのか石でZOOMのリズムマシンを破壊してライブを中断させてしまった。uccelliは猿に取り憑かれたように四つん這いでフロアをかけずりまわる。さらに、Jukeサイドのダンサーは石にFoootworkバトルを仕掛けはじめる。彼には石が巨大なダンサーに見えたという。
そして、衝撃的なデビューを飾ったこの石は「呪いのGorge石」と呼ばれ、呪術的なサウンドとのオカルトな組み合わせが小さな話題となり、インターネットを中心に少しずつ拡散されていった。
JUKEvsGORGE vol.1 Movie Trailer - YouTube
あれから約2年、石は日本Gorgeシーンを語るうえで、「ゴルい」に並ぶ重要なアイテムとして認知されるようになった。Gorgeはいつまでたっても謎のジャンルと言われてはいるものの、現場では少しずつ認知されてきている。そして、日本のみならずアメリカやイギリス、オーストラリアからも共鳴するアーティストやレーベルが現れているので、GORGE.INマーケティング班も音源チェックが追いついていない状況だ。まさかこんなことになろうとは、嬉しい悲鳴である。
ちなみにあの「呪いのGorge石」はどうなったのかというと、あまりにも災いばかり起こるので、FREEDOMMUNE 0<ZERO>でお役御免となり、hanali達が幕張の海に手厚く供養したという話だ。
さて、GORGE.INではまだ発表されていないプロジェクトがいくつも進行中なので、2015年の活動も是非楽しみに待っていていただきたい。先日発表されたプロジェクトのひとつに、兄弟レーベル「SLAB」の立ち上げがある。このレーベルはスロー重低音クラブミュージック「SLAB」を中心にリリースしていく予定で、俺のセカンドアルバムも来春リリース予定となっている。先日公開されたインタビューでもこのことについて話をしているので是非チェックしてほしい。
GORGE.IN.CLIPS - 「この遅さで音楽は可能なのか?」〜Drastik Adhesive Forceインタビュー
Japanese Gorge ヒットチャート2014のトップ1は、京都のMaho Littlebear「Hole To Warp」。おそらく本人はGorgeのつもりで制作したのではないので腑に落ちないとは思うが、今年一番ゴルかった。
Hole To Warp by Maho Littlebear - Hear the world’s sounds
明日は、Gorge Advent Calenderを普通のカレンダーと勘違いして、自身の誕生日を登録してしまったD.J.Kuroki Kouichi(Booty Tune™COO、Juke、Ghetto House、Dance Mania全コンプ、肉マスター)です。お楽しみに。